沿 革
当会の源流は、大戦中の1943(昭和18)年に鉄道省が設立した財団法人陸運協力会に遡ります。その頃、戦時経済のもとで紙が統制物資となり、いわゆる業界紙誌の発行が困難に陥っていました。陸運協力会は、これまで民間業者が発行していた鉄道関係の業界紙を統合して同年4月、日刊紙『陸輸新報』の刊行を開始し、各種雑誌も戦時下の困難を乗り越えて発刊しました。
戦後は名称を財団法人交通協力会と改め、『陸輸新報』も『交通新聞』と改称し、『交通年鑑』と『交通技術』誌を発刊、1949(昭和24)年の公共企業体日本国有鉄道の発足とともに『国有鉄道』・『国鉄線』の両誌を発刊しました。これらはいずれも国鉄の機関誌として、1987年の国鉄改革まで継続発行されました。この間、鉄道創業80周年記念事業として国鉄が編纂した『鉄道辞典』や、100周年記念に国鉄が編纂した『日本国有鉄道百年史』も、同会が刊行しました。
1987(昭和62)年の国鉄改革にあたり、新聞・雑誌の刊行や書籍出版事業は新たに発足した株式会社交通新聞社に引き継ぎ、当会は交通図書賞の選定表彰など、非営利の公益事業に専念することとなり、2011(平成23)年には公益財団法人交通協力会として新たな出発をしました。
電子図書館「戦中戦後の交通と国有鉄道」
交通関係の年次刊行物や、旧国鉄の機関誌類をデジタル版として復刻し、電子図書館に収蔵しています。既に『交通年鑑』・『日本国有鉄道監査報告書』・『国有鉄道』・『国鉄線』・『交通技術』・『鉄道辞典』を収蔵し、今後『日本国有鉄道百年史』などを収蔵する予定です。
当会ホームページ http://transport.or.jp/ の電子図書館にアクセスし、ID・パスワードを入手すると、無料で閲覧することができます。
『鉄道百五十年史』編纂事業
今年10月14日、わが国鉄道の創業150年を迎えます。『日本鐵道史』、『日本国有鉄道百年史』に続く正史編纂に備えて、当会は2012年以来調査・研究活動を進めていました。
鉄道省も国有鉄道も存在しない現在、編纂と刊行の主体をどうするか、資料の収集と保存をどうするか等の難しい問題もありましたが、2015年11月から当会が事務局となって、国交省、鉄道・運輸機構、旧国鉄承継法人、民鉄協会などが参加する「鉄道史に関する懇話会」を発足させ、審議を重ねました。その結果、総事業費3億余円をかけて、国鉄・JRだけでなく民営・公営鉄道を含む鉄道150年の総合史(全5巻および資料編1巻)を編纂し、2022年度に刊行することが決まり、2017年4月、東京大学名誉教授原朗先生を委員長とする『鉄道百五十年史』編集委員会が発足しました。当会は編集委員会の事務局を務め、完成した『鉄道百五十年史』を当会の名で出版します。3億円をこえる事業費は、JR各社のほか民鉄など鉄道事業者、鉄道と関係の深い諸団体や企業などからの寄付で賄い、文字通りわが国鉄道関係者の総力を結集した事業となっています。
編集委員会は2年間にわたる議論を経て全巻の詳細な記述内容を確定し、各巻2名の編集委員(経営史、技術史の専門家各1名)計10名のほか、約60名の分担執筆者が加わって、執筆を始めました。巻別の内容は、第1巻「創業から国有鉄道の誕生まで」、第2巻「帝国の鉄道の形成・発展・崩壊」、第3巻「復興期から高度経済成長期の鉄道」、第4巻「交通市場の変容と国鉄の経営危機」、第5巻「JRと民鉄の時代」となっており、1949年の日本国有鉄道発足から1987年の国鉄改革までの約40年間に2巻を充て、この時代に特に重点を置いた構成になっています。『日本国有鉄道百年史』がいわば旧国鉄の「社史」であったのに対し、『鉄道百五十年史』は旧国鉄・JRのほか民営、公営の鉄道を含む「産業史」を目指すものです。また、数多く刊行されている私鉄各社の社史において殆ど無視されている技術史にも多くのスペースを充てるほか、グローバルな視点から日本の鉄道の発展史をとらえることを目指しています。
原稿執筆は順調に進んでいましたが、一昨年来のコロナ感染症蔓延のため図書館などが閉館となり資料調査に支障を来すなど予期せぬ困難が生じたため、やむなく約1年延期し、2023年度に刊行することとしています。 |